本当に円高か?
昔、海外旅行の際には色々な制約があった。
持ち出しできる外貨や持ち込みできるモノについて制限され、
出入国にあたり面倒臭い申告書類を書かされた。
両替できるのは東京銀行かシティバンクしかなかった。
持ち出し外貨は10万円相当まででパスポートへ書き込まれた
また持ち込み制限について、煙草は1カートン。
酒は3本。ジョニ黒、シーバス、そしてナポレオンが定番だった。
さらに香水。マリリン・モンローは「寝る時に身に纏っているものは?」との質問に
「シャネルの5番」と切り返した。頭が弱くて、セクシーだけの女優と言われたが、センス抜群。
JFKが惚れたのも已む無しか。妻のジャクリーヌは美人で頭が良すぎたようだし・・・・
おっと、話は肉体派女優へと脇道にそれたが、本題の為替管理について。
当時日本は、経常収支も赤字基調、外貨準備も乏しい時代だった。
「外国為替および外国貿易法」(外為法)により、厳しい為替管理が敷かれていた。
70年代以降は輸出が増大し、規制は有事のみ行う方向へと緩和された。
そして98年には外為法が改正され基本は自由となった。
一方、銀行の為替取引についての管理も厳しかった。現在の中国レベルか。
厳しい「持ち高規制」が課せられ、月次、日次での公式報告。
さらに分刻みでの為替持ち高、取引内容、顧客の動向などについて
ホットラインで公式・非公式に当局から報告を求められた。
外貨準備運用の一環として、安いコストの外貨預託を受け、為替介入の執行を
委託されるなど各種恩恵を受ける銀行としては当然の協力義務ではあった。
東京市場では箸の上げ下ろしまで管理されるのに比し、
海外支店では自由度は高かった。
特に取引時間帯が重複する香港・シンガポール市場での取引は抜け道。
従って、この地域で邦銀支店・日系商社が大きな為替差損を出す事件が続発。
損失額は100-200億円。現在と比べれば1桁ほど小さいものの、衝撃的だった。
また企業における為替取引の自由化も進捗。
84年、「実需原則」が撤廃され、商社、生保やメーカーが一斉に参入。
投機的な取引が可能となり、日本の市場は全面オープン化。
東京市場は国際化し、海外市場と比較し規模も影響度も国力に見合うレベルとなった。
かつての1ドル360円が40年に亘る「円高の道」を進み
現在の70円台になった。80%近くもの高騰である。
マスコミ・企業は「円高」、いや「超円高」などと騒ぐが本当だろうか?
ドルに対し絶対値で見れば確かに円高に見える.が答えは「否」。
理由は2つ。詳細は後述するが、
①米国だけを対象とするのは間違い。
②名目ではなく実質で見なければならない
結論的に言えば、多数の通貨との相対価値である「実質実効為替レート」の考え方
を援用せねばならない。過去40年の比較で見れば、現在はほぼ平均的なゾーンにいる。
95年の70円台の時こそ平均水準より50%ほど円高に振れたが、
それ以降は概ね円安に推移してきたのである。
先週、財務省は「円高対応緊急パッケージ」を出した。
気になったのが金融機関に対する「持ち高報告」義務の復活。
時代錯誤的で、効果の乏しい施策と言わざるを得ない。
東京市場で誰が投機的な円買いをしているか犯人捜しをするつもりのようだ。
マーケットは巨大化、グローバル化してきた。為に東京市場は
相対的に地盤沈下。このローカル化した市場で悪玉を探してどうするつもりか。
こんな手法で本当に世界のマネーをコントロール出来ると思っているのか?
刑事ドラマで言えば、まるで出来の悪い警察官か。
鮮やかな謎解きをする特命係・杉下右京からは程遠い。
各国財務省・中銀など世界の通貨当局はどこも円高と認識していない。
従って協調介入などに応じる訳はない。
日本の単独介入は、「通貨の切り下げ競争」という禁じ手と見られている。
かつて大恐慌の後、各国は自国の不況脱出の為にわれ先にと自国通貨を切り下げた。
輸出拡大を図ったのだが、「不況の輸出」を加速化させただけのこととなった。
全ての国が同様に動いた結果、世界経済は破滅的になった。
一国としては正しい行動であっても「合成の誤謬」即ち総合すると悪い結果となる典型。
「円高ではなくドル安である。」「切り下げ競争は世界経済の破綻を招く」。
世界の通貨当局者たちのこの共通認識を財務省・日銀が知らぬはずはない。
「円高対応緊急パッケージ」や「腰の入らない単独介入」。
「現状は円高ではない」とする世界の通貨当局と、「円高」を合唱する政治家・輸出産業
との狭間で、日本の通貨当局が採用できる、唯一のアリバイ的パフォーマンスと言うことか。
PS.
ここから先は専門的になるので、興味の無い方は割愛願いたい。
ただFX取引も流行り1億総ディーラー化する中で、為替入門を、
という方は、読んで損はありません。
「実質実効為替レート」
①世界で日米2ヶ国しかないかの如く米ドル対円の推移で議論されている。
実際は世界に200ヵ国もあり、貿易など為替取引は各国に分散している。
従ってそれぞれの国の通貨との強弱を相対的に比較しなければ
円の対外価値は分からない。
②また名目ではなく、実質で見なければならない。
それぞれの国においてはインフレ・デフレがあり、物価は変動。
従ってこの物価変動による、国内での通貨価値の調整も加味せねばならない。
それらを勘案したものが、「実質実効為替レート」となる。
③05年を100とすると、73年が85(円安)、95年が150(円高)、
現在が100(平均)となる。
④以上述べたことを以下の通り例題により検証してみる。
現在の80円程度は適正ゾーンとの答えを得る。
例1.実質為替レートの考え方に基ずくと・・・
85年9月のプラザ合意。4ヵ月で50円も円高へと調整され、1ドル190円となった。
それから26年。この間のインフレ率の格差を加味すると次のようになる。
インフレ率を日本0%、米国3%と仮定すると、日本円は米ドルに対し
2.3倍ほど上昇して当然となる。即ち当時の水準190円は現在では1ドル82円が理論的解。
例2.購買力平価説に基ずくと・・・・
世界の共通商品であるビッグマックの価格で比較する(エコノミスト誌の調査)。
現在ビッグマックは米国で4.1ドル。一方日本では320円。
即ち1ドル77円が均衡水準と割り出される。
世界にはいろんな商品があり、より多くの商品で検証する必要があるが、それは不可能。
あくまで一例。最も比較しやすい商品であるのは事実。
例3.世界が日米の2ヵ国ではなく、日米欧の3国だと仮定すると・・・・
1ドル100円が適正で「現在は20%も円高だ」との悲鳴に対しての反論。
以下単純モデルで考えてみる。
現在の悲鳴は、世界が日米2ヶ国しかないとの前提にたっている。、
例えば3ヵ国(欧州が存在し、日本からの貿易高が対米、対欧同じとする)
だとしてみよう。
日本が米国に対し2割円高に振れ、対ユーロで1割円安になっている、と仮定し試算。
実質的に日本円の対外価値は5%しか高くなっていないとの結論に至る。
上記の仮定は、米国の比率を50%と想定したが、実際は200ヶ国。
もっと米国の比重は減る。欧州に加え中国、英国、インドなど他国・他通貨を
考慮すると米ドルだけを絶対基準とする考え方がそもそもおかしいと言うことが見えてくる。
「マスコミ報道」
①企業経営者おもに財務の責任者が頭を抱え呻吟する姿を映す。
自分の無策・無能をさらけ出し恥ずかしくないのだろうか
過去40年、海外への生産シフトや決済通貨をドルから
その他通貨に変更するなど、時間と方法がいろいろあったと思う。
②海外の企業、部品工場など安くで買えたはずだが。
そのことについては何も語らない。
③海外旅行に出かける人や、国内でブランド品を安く買えて嬉しい人がいる。
海外に住む年金生活者・移住者もハッピーなはずである。
③なにより、高騰する石油の価格が抑えられたり、中国から入る野菜など
国内の諸物価が下がったりと、国民生活面でメリットも多々あった。
マスコミも少し切り口を変えて報道してはどうだろうか。。。
「為替持ち高」
①為替持ち高(為替ポジション)とは、意図的に作った為替リスクの金額を言う。
通常ポジションには資産・負債の大小で3分類される。
②買い持ち(ロング) 資産>負債の状態にする。 相場が上がれば利益が拡大。
売り持ち(ショート) 資産<負債の状態にする。 相場が下がれば利益が拡大。
平衡(スクエアー) 資産=負債 相場が変動しても損益は動かない。
③ドルロング・円ショートの場合、その保有するドルの量が為替持ち高。
ドルが上昇すると為替益が出る。
④ただこれは銀行に対する規制であり、機関投資家・ヘッジファンドなどには
一切の制約はなく大きな為替ポジションを保有することができる。
従って、「為替持ち高」の規制や報告などにより銀行を縛っても、相場への
影響は殆ど無い。
持ち出しできる外貨や持ち込みできるモノについて制限され、
出入国にあたり面倒臭い申告書類を書かされた。
両替できるのは東京銀行かシティバンクしかなかった。
持ち出し外貨は10万円相当まででパスポートへ書き込まれた
また持ち込み制限について、煙草は1カートン。
酒は3本。ジョニ黒、シーバス、そしてナポレオンが定番だった。
さらに香水。マリリン・モンローは「寝る時に身に纏っているものは?」との質問に
「シャネルの5番」と切り返した。頭が弱くて、セクシーだけの女優と言われたが、センス抜群。
JFKが惚れたのも已む無しか。妻のジャクリーヌは美人で頭が良すぎたようだし・・・・
おっと、話は肉体派女優へと脇道にそれたが、本題の為替管理について。
当時日本は、経常収支も赤字基調、外貨準備も乏しい時代だった。
「外国為替および外国貿易法」(外為法)により、厳しい為替管理が敷かれていた。
70年代以降は輸出が増大し、規制は有事のみ行う方向へと緩和された。
そして98年には外為法が改正され基本は自由となった。
一方、銀行の為替取引についての管理も厳しかった。現在の中国レベルか。
厳しい「持ち高規制」が課せられ、月次、日次での公式報告。
さらに分刻みでの為替持ち高、取引内容、顧客の動向などについて
ホットラインで公式・非公式に当局から報告を求められた。
外貨準備運用の一環として、安いコストの外貨預託を受け、為替介入の執行を
委託されるなど各種恩恵を受ける銀行としては当然の協力義務ではあった。
東京市場では箸の上げ下ろしまで管理されるのに比し、
海外支店では自由度は高かった。
特に取引時間帯が重複する香港・シンガポール市場での取引は抜け道。
従って、この地域で邦銀支店・日系商社が大きな為替差損を出す事件が続発。
損失額は100-200億円。現在と比べれば1桁ほど小さいものの、衝撃的だった。
また企業における為替取引の自由化も進捗。
84年、「実需原則」が撤廃され、商社、生保やメーカーが一斉に参入。
投機的な取引が可能となり、日本の市場は全面オープン化。
東京市場は国際化し、海外市場と比較し規模も影響度も国力に見合うレベルとなった。
かつての1ドル360円が40年に亘る「円高の道」を進み
現在の70円台になった。80%近くもの高騰である。
マスコミ・企業は「円高」、いや「超円高」などと騒ぐが本当だろうか?
ドルに対し絶対値で見れば確かに円高に見える.が答えは「否」。
理由は2つ。詳細は後述するが、
①米国だけを対象とするのは間違い。
②名目ではなく実質で見なければならない
結論的に言えば、多数の通貨との相対価値である「実質実効為替レート」の考え方
を援用せねばならない。過去40年の比較で見れば、現在はほぼ平均的なゾーンにいる。
95年の70円台の時こそ平均水準より50%ほど円高に振れたが、
それ以降は概ね円安に推移してきたのである。
先週、財務省は「円高対応緊急パッケージ」を出した。
気になったのが金融機関に対する「持ち高報告」義務の復活。
時代錯誤的で、効果の乏しい施策と言わざるを得ない。
東京市場で誰が投機的な円買いをしているか犯人捜しをするつもりのようだ。
マーケットは巨大化、グローバル化してきた。為に東京市場は
相対的に地盤沈下。このローカル化した市場で悪玉を探してどうするつもりか。
こんな手法で本当に世界のマネーをコントロール出来ると思っているのか?
刑事ドラマで言えば、まるで出来の悪い警察官か。
鮮やかな謎解きをする特命係・杉下右京からは程遠い。
各国財務省・中銀など世界の通貨当局はどこも円高と認識していない。
従って協調介入などに応じる訳はない。
日本の単独介入は、「通貨の切り下げ競争」という禁じ手と見られている。
かつて大恐慌の後、各国は自国の不況脱出の為にわれ先にと自国通貨を切り下げた。
輸出拡大を図ったのだが、「不況の輸出」を加速化させただけのこととなった。
全ての国が同様に動いた結果、世界経済は破滅的になった。
一国としては正しい行動であっても「合成の誤謬」即ち総合すると悪い結果となる典型。
「円高ではなくドル安である。」「切り下げ競争は世界経済の破綻を招く」。
世界の通貨当局者たちのこの共通認識を財務省・日銀が知らぬはずはない。
「円高対応緊急パッケージ」や「腰の入らない単独介入」。
「現状は円高ではない」とする世界の通貨当局と、「円高」を合唱する政治家・輸出産業
との狭間で、日本の通貨当局が採用できる、唯一のアリバイ的パフォーマンスと言うことか。
PS.
ここから先は専門的になるので、興味の無い方は割愛願いたい。
ただFX取引も流行り1億総ディーラー化する中で、為替入門を、
という方は、読んで損はありません。
「実質実効為替レート」
①世界で日米2ヶ国しかないかの如く米ドル対円の推移で議論されている。
実際は世界に200ヵ国もあり、貿易など為替取引は各国に分散している。
従ってそれぞれの国の通貨との強弱を相対的に比較しなければ
円の対外価値は分からない。
②また名目ではなく、実質で見なければならない。
それぞれの国においてはインフレ・デフレがあり、物価は変動。
従ってこの物価変動による、国内での通貨価値の調整も加味せねばならない。
それらを勘案したものが、「実質実効為替レート」となる。
③05年を100とすると、73年が85(円安)、95年が150(円高)、
現在が100(平均)となる。
④以上述べたことを以下の通り例題により検証してみる。
現在の80円程度は適正ゾーンとの答えを得る。
例1.実質為替レートの考え方に基ずくと・・・
85年9月のプラザ合意。4ヵ月で50円も円高へと調整され、1ドル190円となった。
それから26年。この間のインフレ率の格差を加味すると次のようになる。
インフレ率を日本0%、米国3%と仮定すると、日本円は米ドルに対し
2.3倍ほど上昇して当然となる。即ち当時の水準190円は現在では1ドル82円が理論的解。
例2.購買力平価説に基ずくと・・・・
世界の共通商品であるビッグマックの価格で比較する(エコノミスト誌の調査)。
現在ビッグマックは米国で4.1ドル。一方日本では320円。
即ち1ドル77円が均衡水準と割り出される。
世界にはいろんな商品があり、より多くの商品で検証する必要があるが、それは不可能。
あくまで一例。最も比較しやすい商品であるのは事実。
例3.世界が日米の2ヵ国ではなく、日米欧の3国だと仮定すると・・・・
1ドル100円が適正で「現在は20%も円高だ」との悲鳴に対しての反論。
以下単純モデルで考えてみる。
現在の悲鳴は、世界が日米2ヶ国しかないとの前提にたっている。、
例えば3ヵ国(欧州が存在し、日本からの貿易高が対米、対欧同じとする)
だとしてみよう。
日本が米国に対し2割円高に振れ、対ユーロで1割円安になっている、と仮定し試算。
実質的に日本円の対外価値は5%しか高くなっていないとの結論に至る。
上記の仮定は、米国の比率を50%と想定したが、実際は200ヶ国。
もっと米国の比重は減る。欧州に加え中国、英国、インドなど他国・他通貨を
考慮すると米ドルだけを絶対基準とする考え方がそもそもおかしいと言うことが見えてくる。
「マスコミ報道」
①企業経営者おもに財務の責任者が頭を抱え呻吟する姿を映す。
自分の無策・無能をさらけ出し恥ずかしくないのだろうか
過去40年、海外への生産シフトや決済通貨をドルから
その他通貨に変更するなど、時間と方法がいろいろあったと思う。
②海外の企業、部品工場など安くで買えたはずだが。
そのことについては何も語らない。
③海外旅行に出かける人や、国内でブランド品を安く買えて嬉しい人がいる。
海外に住む年金生活者・移住者もハッピーなはずである。
③なにより、高騰する石油の価格が抑えられたり、中国から入る野菜など
国内の諸物価が下がったりと、国民生活面でメリットも多々あった。
マスコミも少し切り口を変えて報道してはどうだろうか。。。
「為替持ち高」
①為替持ち高(為替ポジション)とは、意図的に作った為替リスクの金額を言う。
通常ポジションには資産・負債の大小で3分類される。
②買い持ち(ロング) 資産>負債の状態にする。 相場が上がれば利益が拡大。
売り持ち(ショート) 資産<負債の状態にする。 相場が下がれば利益が拡大。
平衡(スクエアー) 資産=負債 相場が変動しても損益は動かない。
③ドルロング・円ショートの場合、その保有するドルの量が為替持ち高。
ドルが上昇すると為替益が出る。
④ただこれは銀行に対する規制であり、機関投資家・ヘッジファンドなどには
一切の制約はなく大きな為替ポジションを保有することができる。
従って、「為替持ち高」の規制や報告などにより銀行を縛っても、相場への
影響は殆ど無い。
スポンサーサイト