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シリアの混迷

ロシア軍機がシリアとの国境付近でトルコ軍に撃墜された。

本年9月からロシアがシリア空爆を始めたが何度もトルコ領空を
侵犯しており、遂に起こるべくして起こったというところだ。

ロシア側は領空から1キロほど離れていたと主張しているが、
この水掛け論は結論を見る事はないだろう。



ロシアのシリア空爆は、建前としてはISを狙ったものとされているが、
本音は親ロシア的なアサド政権を支援する為に反政府勢力への攻撃に
主眼がおかれており疑惑の目を向けられていた。

また空爆地域がトルコとの国境でトルコ系のトルクメン人に
照準を合わせているとしてトルコ・ロシア間での対立が続いていた。

一方トルコはイランやクルド人勢力を敵対視する一方で、
NATO(北大西洋条約機構)の加盟国であり、ロシアは手を出せないと
踏んでいるふしもあり、今回ロシアに一撃を加えたと思われる。



これまではISに対し有志連合(米国はじめトルコなど中東各国)、
フランス、ロシアなどにより空爆が進められてきたが、それぞれの足並みは揃わない。

またパリ同時多発テロを受けてフランス・オランド大統領はこの間、
オバマ米大統領、メルケル独首相そしてプーチン露大統領と会い
欧米ロ大連合による対IS包囲網の強化を図ってきた。

とはいえそれぞれの国のアサド政権への距離感と
利害が異なっておりフランスの思惑通りに進むのは難しい。

もともと中東の混乱の根源は100年前の第一次世界大戦中に起きた
中東の石油利権をめぐる英国の三枚舌外交のせい。

その歴史を眺めれば、複雑に絡まった糸がほどけるように
事態が解決へと進む可能性は期待できない。



注)英国の三枚舌外交

オスマン帝国崩壊後の国境線引について、英国が秘密裏に
次の3つの約束をしていた。

それぞれは矛盾はしていない様に見えるが、この100年
この地域には疑心暗鬼が渦巻く原因となった。

1.フサイン=マクマホン協定

1915年にイギリスが、オスマン帝国の支配下にあった
アラブ地域の独立と、アラブ人のパレスチナでの居住を認めた協定。

2.バルフォア宣言、

1917年11月2日に、英外務大臣アーサー・バルフォアが、英国の
ユダヤ系貴族院議員である第2代ロスチャイルド男爵ライオネル・ウォルター・
ロスチャイルドに対して送った書簡で表明された、英国政府のシオニズム支持表明。

3.サイクス・ピコ協定

1916年第一次世界大戦後のオスマン帝国における勢力分割を
連合国のイギリス・フランス・ロシアが約した秘密協定。




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カルタゴ

先日チュニジアの首都チュニスにあるバルド美術館で3人の
日本人を含め20人もの観光客がテロに遭い死亡した。

ニュースは「アラブの春」、また「IS」の2文字ばかりが強調されて、
一言も「カルタゴ」の名前が出てくることはなかった。

それもこれも日本の世界史教育で古代地中海文明に
ついてギリシャ以外教えることがないせいだろうか。

この地は3000年位前にフェニキア人が作った古代都市国家
カルタゴの跡地であり有数の世界遺産と言われるのだが・・・・



通商国家カルタゴと軍事国家ローマはシチリア島を挟んで
睨み合って位置し、3度にわたりポエニ戦争を戦った。

とくにハンニバル将軍が30頭の象を先頭に数万人の兵と共に
アルプスを越えてローマに攻め入った作戦は特筆される。

結局三度ともカルタゴが敗れ全ては灰燼に帰し
国民全てが奴隷となって国家は滅んだ。



その遠因として前2世紀カルタゴは、50年賦と決められた
賠償金を一括払いした。

これが逆効果でいくら叩いても不死鳥のように蘇るカルタゴ人の
経済力に、ローマ人は、羨望と恐怖心を抱いたとされる。

そこでローマの指導者カトーが元老院で叫んだ。
「デレンダ・エスタ・カルタゴ」(カルタゴは滅ぼさねばならない)

国家の安全保障を傭兵に頼り平和ボケしていたカルタゴは
ローマの敵意をくみ取ることが出来ずに国家が滅んだ。

日本がカルタゴに擬せられることが多いが、
同じ運命を辿らないでもらいたいものだ。




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イスラム国人質事件

過激派組織「イスラム国」による日本人殺害事件について
様々なところで様々な議論が行われているが、問題の本質が
どこにあるのかわかりづらく頭がもやもやしている。

「アベ。勝てもしない戦いに参加するという
 お前の無謀な決断のせいだ」。

このような「イスラム国」の指摘を鵜呑みにし、新左翼系は
今回の事件は、安倍首相が「イスラム国対策にカネ(2億ドル)を出す」
と宣言した「カイロ演説」が引き金だと断じる。

果して事件の発端そして責任はイスラム国などの
言うように安倍首相にあると理解するのが正しいのか?



今回の被害者のひとりは軍事会社を経営する湯川遥菜氏。
反シリア軍の傭兵となりイスラム国との戦闘中に捕縛された。

もうひとりはフリージャーナリストの後藤健二氏。

朝日は同じジャーナリストの行動の
重さを伝えたいのだろう。

その見出しはまるで「英雄」の死を弔むと言った
風情で扇情的だ。

もう少し冷静に事態を眺めれば、 外務省は後藤氏に対し、
昨年9~10月に3回にわたってシリアへの渡航を見合わせるよう
直接要請していた。

後藤氏はそれを振り切り「自己責任」と語って自ら危険地域に
身を投じたが、このように職業意識にかられて危険に飛び込んで行く
人を無辜の市民と同列に扱うべきなのか?



政府は「内外の日本人の安全確保に万全を期したい」と強調し、
退避勧告に強制力を持たせるべきだとの意見も出ている。

しかし憲法22条が保障する「居住、移転の自由」を前にそれも難しい。
 
何よりも、テロが日本国内で起きたりすることは
絶対回避されねばならない。

しかし「紛争」を飯のタネにする職業軍人や戦争ジャーナリストまで
どうやって助ければ良いのだろうか?

「弟のこれまでの仕事は評価するが、今回は軽率としか
言えない」との後藤氏の兄の発言を聞くに及んで、
今回の事件の本質が見えた。




歴史序説

今月の日経新聞・「私の履歴書」は東大寺長老で
イスラム学者の森本公誠氏。

陸軍将官を父に持ち何不自由なく暮らしてきた人が
何故15歳で入寺したか、そして得度しながらもイスラム
を学んだのか興味の湧くところだ。

仏門にありながら、学問そして音楽と二足、三足の
草鞋をはくその異才ぶりに舌を巻きながら読み進んでいる。



人生の禍福はあざなえる縄の如きものだが
この人もまた同じ。

終戦4か月前に広島から奈良に転居したお陰で、
通学仲間が全員死亡する中で被爆を免れた話。

そして父親が戦犯となり母の病死が加わり
苛酷な運命を辿った少年時代。

京都大学ではアッバース朝の財政問題についての
修士論文がドイツの専門誌に掲載された話。

挙句はイブン・ハルドゥーンの「歴史序説」(岩波書店)の
日本語の訳者となったことなど。

その能力、精神力そして何よりも知的好奇心が
80歳のこの人の人生を彩ったのだろうか。



「小説よりも奇なり」な人生を歩むのは
人の常ではある。

とはいえ伝記は目下著者20代半ばに達し、
カイロ大学留学時代の異文化体験に至っている。

和歌山県・下津港からタンカーでエジプトへの出航に
始まる冒険譚は愉快だ。

盛夏に一服の清涼剤となる数々の話は
いやが上にもイスラムへの興味をそそる。

早速Amazonで「歴史序説」を注文した。


砂漠の平和

1990年8月、イラクがクエートに侵攻したが、
多国籍軍の支援を受けてこれを撃破した。

この支援に対し、クウェート政府はワシントンポストに
30か国の名前を列挙し、感謝広告を出した。

しかし戦費を130億ドルも拠出したにも拘らず、
派兵しなかった日本の名前はなかった。

この時のトラウマが外務省をして、海外派兵を可能にする
集団的自衛権の行使容認を目指す推進力となったとも言われる。

同時にこのトラウマが安倍首相の意図と共鳴し、
世論に反して今回の安保政策の早期転換に
結実したものとみられる。



しかし、中東情勢は宗教上、政治上、そして何よりエネルギー戦略上
問題は複雑で、この時一時的に砂漠に平和は訪れたものの、
なかでもイラクを取り巻く環境は引き続き流動的である。

9.11以降、サダム・フセインの政権が倒れマリキ政権が
誕生し、2011年にはビンラディンが暗殺され、同年末には
米軍は完全に撤退して一段落と思われたのもつかの間だった。

シーア派ばかりを重用するマリキ政権への反発は
高まり、スンニ派の過激集団「イラク・シリアのイスラム国」
(ISIS)が攻勢を強め、目下バクダッドを目指している。

さらにクルド人も独立を目指し、イラクは
3分割される可能性も出てきている。



スンニ派とシーア派との対立は7世紀のムハンマドの
跡目争いにその起源が求められる。

現在ムスリム16億人のうち90%がスンニ派、
そしてシーア派は10%程度と言われている。

ただイラン、そして原油を産出するイラク南部は
圧倒的にシーア派である。

米国のスタンスは軍事力の使用には極めて慎重。
同時にケリー国務長官は、ISISへの対抗上イランとの
共闘を示唆するなど(後に否定)話を混戦させている。

砂漠の平和崩壊は中東の石油に依存する日本そして
世界経済を不安定化させる。

さらに集団的自衛権の行使容認が可能となった今
早速その対応が試されることとなるかも知れない。



・.
プロフィール

斉藤洋二

Author:斉藤洋二
銀行・生命保険会社にて
長く為替・投資業務に携わった。

特にホンコン、パリ在住の際には
中国・アジア・欧州・アフリカ
各国を見て歩いた。

歴史・料理・音楽に興味がある。

「ネクスト経済研究所」代表

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