和僑

日米を舞台にしたハードボイルド風の犯罪小説家として
デビューして以来、作家・楡周平との付き合い長い。

このところは経済小説にも進出し、目下過疎化が進む
日本の農村をテーマにした作品を書いている。

とくにその代表として地方の過疎問題の解決策として「プラチナタウン」を、
さらにその続編である「和僑」を上梓している。

「プラチナタウン」では宮城県北部の過疎化が進む農村を
活性化するため、商社を退職した主人公が地元に帰り町長となって
老人ホームを誘致し、「プラチナタウン」として復活させる話。

これは伊吹・元衆院議長が石破・元地方創生相に読むように
勧めたとして話題を呼んだ作品でもある。

それから主人公が2期8年を町長として尽力し老人ホームは
8千人の住民で膨れ村は財政破綻の危機から脱する。

しかし20年、30年後の村のビジョンはと言えば、人口減少の波に
飲まれることは必死で、その再生を図る計画を考えるのが今回の「和僑」だ。



「和僑」とは「華僑」や「印僑」のように日本人も海外へ進出すると言う意味だが
実際には日本人は中国人やインド人とは異なり海外へ出るのは苦手。

代わりに日本の農業製品を海外へ売ること、つまり「和僑の里」として
農村を生き返らせ、海外レストランチェーンとの提携を目指す。

実際日本は人口減少に直面しており、とりわけ就労者の平均年齢が
70歳近い農家では跡取りもおらず先細りは必至だ。

とはいえ政府は人口減少や農村の高齢化などの根本的問題に
取り組んでおらず、一自治体がその問題を解決させるのも難しい話。

とりあえずこの小説においてはその村で生産される畜産物、野菜などを
半製品化して海外の提携先へ売ることにより農業の活性化を目指すというもの。



地方の過疎化対策として地方創生大臣および組織が設置されているものの、
やはり今後急速に人口減少が進む日本、とくに農村においての解決は
難しそうだ。

「人口動態は運命だ」と言われるように小手先の対応策では
この大きな問題を解決することは不可能ではないか。

もし地方の実態を知りたい、再生の可能性について考えたいと
思う方がおられれば、この2作をお勧めしておきます。


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米中もし・・・



月が変わって皐月から水無月になったものの、
さつきツツジは春の名残を留めて精彩を放っている。

国士舘大学のキャンバス前を歩いていると、
その美しさに思わず立ち止まってしまった。

この素晴らしい季節の真っただ中で目下読んでいるのは
ピーター・ナバロの「米中もし戦わば」。

この著者はカリフォルニア大学の教授で、トランプ政権において補佐官となったが、
USTR代表のライトハイザー氏とともに筋金入りの対中強硬派だ。

本著はものものしい題名だが、原題は「CROUCHING TIGER」。
さしずめ「うずくまる虎」と言ったところか。



この書が冒頭に語っているが、既成の大国と台頭する新興国が
戦争に至る確率は70%以上とか。

遠い昔にはスパルタと新興アテネとのペロポネソス戦争があったとし、
近いところでは過去500年において英国VS独のように15件の覇権争いが
あり、内11件において戦争になったとする。

その前提をもとに、目下の米中の覇権争いが無益な戦争に至る
可能性について分析するのが本著の狙いだ。

これまでのところ米国の軍事費が中国の3倍に上ることから
米国の優勢は変わらないとしているが、中国の人件費そして
生産コストの低さを鑑みれば米中の戦力の格差はそれほど大きくない。

また中国の経済成長を考えるとそれほど遠くない将来において
その戦力は対等になるとしている。

さらに両国の経済力がともに大きいだけに戦争を長く継続する能力は高く、
核戦争に至らないとしても通常戦力での長期戦になると見立てている。

つまり早期決着どころか勝敗の帰趨も見えないままに
60年をはるかに超えた朝鮮戦争の再現の恐れもなしとしないようだ。



中国はチベット、ウイグルなどへと領土を拡大しているだけに
ランドパワーとしての優位性は大きいが、他方宗谷海峡から
台湾、マラッカ海峡に至る列島線においてシーパワーの米国に
封じ込まれる可能性も大きい。

ともかく破滅的な事態に短絡的に陥るとは思わないが
米中双方に戦争を望む人たちがいることが気がかりでもある。

中国は鄧小平の教えた「韜光養晦(とうこうようかい」(能ある鷹は爪を隠す)を忘れて
海外へのプレゼンスを高めたいとする勢力が軍部そして共産党で拡大しているようでもある。

両国はどこまで冷静を維持することが出来るのだろうか。



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ギリシャ人の物語

七月生まれで七生(ななみ)と名付けられたという
塩野七生氏もまもなく80歳。

フィレンツエ、ローマと暮らして40年を超えると言うが
デビュー以来すでに40年全著作40冊余りの大半で
お付き合いしてきた。

年に一冊のペースでルネサンス、ベネチア、ローマ、十字軍、
神聖ローマ帝国と書き続けてついに欧州の出発点のギリシャに至った。

と言うことでこのGWは「ギリシャ人の物語」の第一巻「民主政のはじまり」を読んだ。



サントリー学芸賞を受賞して登場し、「海の都の物語」でベネチアから
コンスタンチノープルへと誘われた時の感動は大きかった。

とは言え近頃は執筆疲れはないとしても読み手側に
マンネリ感があるのかも。

90年代の15巻に渡った「ローマ人の物語」の前半において
ハンニバル、カエサル、オクタビアヌスを書いていたころは
著者が「カエサルLove」と語るように登場人物も生き生きとしていたが。



ただ著者がポエニ戦争やガリアでの戦記を詳述したように、
今回も2度にわたるペルシャ戦争については力が入った。

ダレイオス、クセルクセスの「専制国家ペルシャ帝国の大王」との
決戦にはやはり力が入らざるを得なかったようだ。

とは言え「歴史の父」ヘロドトスの「歴史」と比べるのは気の毒だが、
やはり筆力が落ちるのは否めないと言ったところ。

山崎豊子は88歳で死去するまで書き続けていたが、
一体塩野氏は何歳まで書けるのか?

ともかくここまで来た以上最後までお付き合いするつもりだ。



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マチネの終わりに

丁度1年前に刊行された平野啓一郎の
「マチネの終わりに」を読んだ。

毎日新聞の連載小説だったそうだが、久方ぶりに
大人の恋愛小説を堪能することができた。

38才のギターリストと40才のユーゴスラビアと日本人の
ハーフの美人で理知的な女性ジャーナリストの純愛。

通奏低音としてギター曲、たとえばアランフェス協奏曲など
が流れ、また演奏家の苦しみそして技法などマニアックな内容が
描かれるなど、音楽ファンには楽しみが倍加しそう。

恋愛小説にはお決まりの恋路を邪魔する卑劣で鈍感な女が登場し、
筆者は怒り心頭に達しその女を呪いつつ一気に読了してしまった。



平野啓一郎は大学時代に「日蝕」でデビューし芥川賞を受賞
したが、今や42歳。

これまで取っ付きにくい作家との印象が強かったが、
家族3人を抱えてちょっと読みやすい、つまり売れる本へと
舵を切ったと言われるのも頷ける。

イラク戦争、リーマンショック、東日本大震災を下敷きに、
パリ、ニューヨーク、東京、長崎へと舞台は展開する。

構成力も秀逸で、今回は本屋大賞は逃したが、
渡辺淳一文学賞を受賞したのは当然。

たまには恋愛ものをと思う方には是非ともお勧めしておきます。



最終章に入り残る頁が減って行くに従い、その顛末がどうなるか
はらはらしながら読み進んでしまった。

そして最後のシーンはマチネの終わったセントラルパーク。

二人がどうなるかはここでは明かせないが、
お陰で余韻を楽しんでいるところ。

今回の小説から学んだ恋愛のイロハと言えば、
PC,携帯のメールに頼らずに、重要なことは面と向かって話すこと。

もしこんな素敵な女性に出会ったら、ぜひその教訓を生かしたいと思う。



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わが友

朝吹登水子さんの書いた
「わが友 サルトルとボーヴォワール」を読んだ。

それは50年前にサルトルとボーヴォワールの来日に伴い
パリからお供した時の記録。

そしてその後二人が亡くなるまでの15年余りの
交遊がしたためられている。

ふたりは慶応大学の招待で来日し、京都、倉敷、九州などへと
講演旅行を続けた。

ホテルオークラや京都の俵屋など各地の宿舎で
毎夜ウイスキーで晩酌していたようだ。

ふたりの関係は対等で、日本の文化、会った人、身の回りの出来事など
いろんなことに興味を持ち議論しては思考を深めていた様子が綴られている。

ちなみにサルトルは清水寺から下る三年坂を
「最も美しい散歩道」と言って気に入っていたようだ。



帰国後も交友は続き、最晩年に体が不自由になったサルトルを
何度も見舞ったことや二人を我が家に招待したことなどの思い出が
散りばめられていた。

実際有名人のサルトルとカフェで話していると、いつの間にか
周辺の人は聞き耳をたて、場合によってはサルトルの真後ろの席へと
移動してくることなど日常茶飯事だったようだ。

今二人はモンパルナスの墓地に仲良く眠っているものの、
訪れる人は引きも切らずで落ち着けないかも知れない。



肝心の朝吹さんはサルトルから自らの履歴について
小説にするよう再三勧められていたとのこと。

それが「愛の向こう側」として出版されたのが1970年代後半頃で
サルトルが帯に推薦文を書いてくれた。

朝吹さんは一度お見掛けしたこともあるし、軽井沢の睡鳩荘を
訪れたことがあるのも何かの縁。

しばらく朝吹登水子・由紀子母娘がライフワークとして取り組んだ
F・サガンの作品集を読んでみるのも悪くなさそうだ。


ps

さらに白石浩司「サルトルの時代」によれば、「結婚は物質的なものではなく
愛情による」として二人は契約結婚した。

また二人とも余り子供が好きでなく、
一方恋人は何人かいたようだ。

その結婚観は独特で一般常識人の理解を超える。


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プロフィール

斉藤洋二

Author:斉藤洋二
銀行・生命保険会社にて
長く為替・投資業務に携わった。

特にホンコン、パリ在住の際には
中国・アジア・欧州・アフリカ
各国を見て歩いた。

歴史・料理・音楽に興味がある。

「ネクスト経済研究所」代表

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