FC2ブログ

世界のリスク

銀行時代からお付き合いしている倉都康行氏
から新著「危機の資本システム」(岩波書店)をお送りいただいた。

同氏は証券・資本市場の専門家としてロンドンそして
米銀で勤務したあと、この20年コンサルタントのかたわら
教鞭をとりつつ執筆を行うなど多岐に活躍されている。

今回の著書において、リーマンショックから10年が経過し
予想外の世界経済回復に安心感が広がっているが、
その風潮に対しリスクを検証し警告を発している。

具体的には米国金融システムの脆弱性、中国経済の混迷化、
通貨ユーロの弱体化、日本における財政不安と金融リスクなど
を指摘しているのである。



リスクは発生確率と影響度の大きさによりマトリックス化
することができる。

それでは発生確率が高くそして影響度が大きなものは何か。

倉都氏はそれは現下の米中貿易戦争のの拡大にともない
中国経済が不安定化することであるとしている。

11月後半のG20における米中首脳会談を前にして、目下米中関係の
改善が期待されているが、ことはそれほど容易ではなさそうだ。

米国は米中貿易戦争を経済問題としてではなく、
G2の覇権争いつまり安保問題ととらえている事による。

一方中国に目を転じれば、インフラ投資もゴーストタウンが広がるように
過剰投資と過剰消費で成長を実現するのはもはや限界だ。

また株価の底割れの可能性も捨てがたく、チャイナリスクは今や
発火寸前と言うところだろうか。





それでは発生確率が低くてもその影響度が大きいもの、
それはテールリスクと言われるものだが、倉都氏は
日本の財政・金融リスクの存在と指摘している。

すでに6年を経過したアベノミクスの集大成として
これからの3年が位置付けられる。

その間の最大の課題こそが出口戦略つまり異次元緩和からの
脱却と言うことだ。

いつまでも劇薬を使い続けることが出来るはずもなく
その副作用は日本経済の根幹を傷める。

すでにインフレ目標の2%など画餅であることは誰もが
認めるところであり、グローバルリスクが伝播した時の
円高を通じて日本経済が大打撃を受けることは避けられない。

つまり6年にわたる円安そして名目実効レートベースで見た
ドル高を見れば、次に来るのは未曾有の円高・ドル安だ。

その時に打つべき手がないことが日本そして世界経済の
テールリスクになるに違いないだろう。


.
スポンサーサイト

下山の思想

かつて東横線の白楽駅から歩くこと10分ぐらいの
丘の上に住んでいたことがある。

その道すがらには岸恵子の実家とともに、五木寛之が
住むマンションが建っていた。

当時「さらばモスクワ愚連隊」でデビューして以来超売れっ子だったが、
「青春の門」も読んでいないし、それほどのファンでもなかった。

ところが同氏が50歳前後に龍谷大学の学生として仏教を学んで以降
浄土思想に関する作品が増え馴染みができた。

「蓮如」や「親鸞」などの小説を書く一方で、高齢者への応援メッセージを
数多く発信する機会が増えたのである。

最近でも先月は朝日新聞でこの人の来し方や思想についての
エッセイが連載された。

さらに今月は文芸春秋の「孤独」特集において巻頭言として
「人間は生まれた時も死ぬときも一人」と言った内容を書いているのである。



と言うことでこの86歳の作家の人気の秘密を探ろうと、過去数年に書いた
「新老人の思想」「下山の思想」「ただ生きていく、それだけで素晴らしい」という
3冊のエッセイを流しながら読んでみた。

その内容は老人世代(この人は階級と呼んでいるが)に対して、
登山の後は下山があるのを当然として、下山の心構えを語っている。

その要諦は、「孤独」を甘受するとした上で「生き方」と
「逝き方」をやさしく語っている。

実際人間が必要とする絆について、その相手としての
友人に対して適正な距離を持つことを進めている。

また妻、家族に対しても同様で死ぬ時は一人である
覚悟を持つことが肝要としているのだ。



そして「逝くべき」適齢期については法然80歳、蓮如85歳、
親鸞90歳で死去したことを例に挙げ、それを理想としているようだ。

とはいえ宗教家は別として、現代社会における普通の人間には
経済的、肉体的、社会的制約がある以上それは難しいとしている。

つまりやみ衰えて寝たきりになる直前の75歳から80歳辺りが現実的そして
理想的な逝き時ではないか、と言うのがこの人の考え方のようだ。


TEN

楡周平の「TEN」を読んだ。

この作家は長く米国企業に勤務したのち文筆家となり
20にわたり犯罪小説そして経済小説を書いてきた。

日米を股にかける悪役ヒーローを主人公にした
ハードボイルド「Cの福音」がデビュー作。

そしてこれに続く朝倉恭平シリーズで軒並みベストセラーを連発した後
「和僑」や「プラチナタウン」などの話題作を世に送り出している。



今回の作品は横浜のドヤ街で育った主人公が戦後の
高度経済成長下において成功を収める痛快な話だ。

苦労を乗り越え胸のすくような活躍をするが、
同時に裏切りあり、ドン出ん返しありで飽きないままに話は進んでゆく。

戦後の社会の変化、ホテル業界の発展、そしてモデルとなった
プリンスホテルの蹉跌の裏側を知るのはなかなか面白い。



日本人は信長の草履とりから大出世した太閤秀吉のことがいたって好きだ。

この物語もまた主人公が料亭の草履とりをしていた時に
ホテルチェーンのオーナーに見出されるところから始まる。

そして中卒ながらオーナー社長の運転手として
ホテルに入社し、さらに正社員の末席に連なることになる。

時はまさにレジャーが日常化する直前で、このアイデア豊かな
主人公が空前の出世をする必要条件はそろっていたということだ。

小説とはいえ秀吉もどきの成功物語を読むのは楽しい。

ランチを2度抜いて2千円を出しても構わないというエンタメ小説
好きの方がおられたらお勧めしておきます。



.


天子蒙塵4

浅田次郎の清朝を題材にした一連の小説全13巻を読了した。

1997年の「蒼穹の昴」からすでに20年を経過し、物語も
愛新覚羅家の始祖ヌルハチから300年下った12代溥儀に至った。

この小説をどのように終わらせるのかと思っていたが、清朝最後の
皇帝溥儀が満州国の皇帝として再度登極するところで完結した。

関東軍の傀儡として溥儀が満州国を追放され落魄の極みに
達することなく終了したことに多少は救われたのだ。



それにしても溥儀の凶相はこれまで再三各所で指摘されてきた。

300年前に荒野を駆け巡った女真族の貴種である愛新覚羅家の
勇猛な血筋も病み衰えたのは歴史の必然でもあり、溥儀の凶相は
まさにその象徴か。

始祖ヌルハチ以降愛新覚羅家は長城を超えて清朝を起こし
賢帝を輩出した。

しかし200年ほど下ったころから血が衰えついに西太后が
登場し曽国藩や李鴻章が国を支えることになったのだが。

この小説の登場人物は康熙帝、乾隆帝という歴史上の
人物はじめ千人を大きく超えたろう。

その中でも終始一貫して登場したのが宦官・李春雲と科挙をトップで
合格(=状元)した梁文秀、つまり清朝の裏と表を支えた創作上の二人だ。

小説の最後に年老いたこの二人を登場させたのもさすが
浅田次郎の構想力ということだろうか。



とはいえこの20年におよぶ執筆は大作家にとっても長すぎたか、
テーマが大きすぎたか。

後半戦は小説の質としてその劣化は拭えないように見えた。

やはり小説家も60歳を過ぎると筆力が落ちると言われるが、
浅田次郎もその例外ではなかったということか。

ともかく小説としても面白かったし中国の近現代史について
理解を深めることのできる作品だった。

良い作品に出合え読書の楽しさを満喫できて満足、満足。

..

世界史

.
20180920092611fee.jpg


パリ在住の竹下節子さんから近著「神と金と革命が作った世界史
ーキリスト教と共産主義の危険な関係」(中央公論新社)を送って頂いた。

毎年この時期に1冊づつ新刊書を頂いているが
音楽家としても多忙の中でこれだけの内容のものを
上梓できる能力については今更ながらに驚く。

まあ自らの尺度で考えるのでその能力に感心するのだが、
ご本人にとってはさしてどうと言うこともないのだろう。



ともかく一読したが内容が濃いだけに理解は十分ではなく
あらためて精読する必要がありそうだ。

アリストテレスと自然法から書き起こし、キリスト教そして西洋思想史の
系譜をたどりつつ、ロシアから南米、アジアなど様々な地域を巡り
キリスト教と共産主義を軸として思想の歴史を辿る。

特に神と金(カネ)と革命思想は共闘と排斥を繰り返し、三すくみ
のメカニズムが続いたとする。

そして副題にあるようにキリスト教と共産主義の関係についての
考察が今回の主なテーマだが、お陰で日本、中国、韓国など
アジアにおける近代思想の流れも良くわかる。

日本で言えば内村鑑三や志賀義男、中国では康有為や陳独秀、
朝鮮では金日成など知った名前が登場するのはうれしい。

と言うことで親近感のある人たちの登場でアジア編を楽しく感じるのは
やはり自らがアジアの人間の故だろううか。



人類500万年の歴史において数千億人が誕生しては死亡し、
また過去5千年においてメソポタミアに始まり世界に1000を
超える王朝が興亡した。

したがってヘロドトスや司馬遷など歴史は様々な人により
様々な切り口によっておびただしい数のものが書かれてきた。

今回の竹下さんの綴る世界史はまったく新たな切り口であり
極めて新鮮なものとなった。



プロフィール

斉藤洋二

Author:斉藤洋二
銀行・生命保険会社にて
長く為替・投資業務に携わった。

特にホンコン、パリ在住の際には
中国・アジア・欧州・アフリカ
各国を見て歩いた。

歴史・料理・音楽に興味がある。

「ネクスト経済研究所」代表

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR