五輪後の日本

東京五輪まであと2年となった。

目下の日本経済は東京の中心地で不動産価格が高騰し
株価も26年ぶりの高値を更新している。

そして非正規を中心に賃金も上昇するなど労働需給は
ひっ迫しておりミニバブルとの声も出ている。

しかしこの好況感も東京五輪までとの見方が強く
過去のバルセロナやアテネ五輪時と同様に早晩景気は
腰折れし、深い谷到来の惧れをぬぐえない。

実際2022年ごろまでは女性および高齢者の労働参画で
生産年齢人口の増加が見込まれるが、それ以降は
労働者数の激減は避けられない状況だ。



このような環境において、日銀審議委員を昨年退任した慶応大学教授の
白井さゆり氏が書いた「東京五輪後の日本経済」を読んだ。

白井氏と言えばIMFに長く勤務したエコノミストで女性枠で日銀の審議委員になった。

そして一環して白川総裁の信奉者であったはずなのだが、黒田氏が登場するや
いち早く黒田氏の非伝統的な金融政策支持派へと変身を遂げた。

白川氏は在任中に金融緩和を15回も行いまたETFの購入を始めた緩和推進者
なのだが、その金融緩和政策は「しょぼい」と政府から非難されてきた。

特に後任の黒田氏の「大胆な」スタンスと比較されて気の毒だったのだが、
白井氏はそのタイミングで巧みに立ち回ったということだ。



この黒田総裁の下日銀が量的質的緩和策(QQL)を推し進めて5年
経過したが、やはり金融政策だけではこの日本が直面しているデフレ経済を
払拭することはできない、というのがコンセンサスになりつつある。

したがってこれからは日銀の資産の膨張とリスクの増大に配慮して
金融緩和の出口戦略へのかじ取りを行うべき。

また政府も公的債務が無尽蔵に拡大する中で財政規律を守らねば
日本は立ち行かなくなる。

と言ったワーニングが白井氏の結論と言ったところ。

その意見には同感であり、現在の政府と日銀による
財政ファイナンスの継続は危険である。



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きことわ

5年前に弱冠26歳で芥川賞を受賞した朝吹真理子氏の
「きことわ」を読んだ。

若い女流作家の登場と評判になったが題名が意味不明でもあり
読む機会なく過ぎていた。

最近良い作品だと薦めてくれる人がいたので読んでみた。



この短編は貴子(きこ)と永遠子(とわこ)が25年ぶりに葉山の別荘で
再会する話。つまりふたりの名前の頭二文字が題名の由来だ。

33歳と40歳になった二人の女性が9歳と15歳だった頃の記憶を辿り、
また意識は夢とうつつを往還しつつ、まさに時を主題にしながら
静かな夏の一日を描いている。

内容は静謐、文章は透明で饒舌でもなく舌足らずでもなく
言語感覚に優れた作家であることは一目両全だ。

綿矢りさ氏は文春がアイドル路線に切り替えたお陰で選出された、
そして作品は水準以下と酷評されて、第2作がなかなか書けなかった。

果たしてこの朝吹氏は綿矢氏との違いを示すことができるのか?



朝吹氏は受賞後祖父の妹に当たる朝吹登水子氏についての
思い出をたびたび聞かれたということだが、苗字が一緒とはいえ
法事で2、3度あっただけで答えに窮したとか。

その辺りのことについてはノンフィクション「朝吹家を生きる」
(石村博子著)に詳しく記されている。

それにしても朝吹家は初代、2代目が実業家だったが、
それ以降は音楽家や建築家、仏文学者など芸術的に多彩な人が多い。

その秘密は富や名誉よりも自立した精神を養うことを
優先させる家訓にあるようだと石村氏は結論づけていた。

「自立した精神を追い求める」とはとても説得力を感じるが、
いまさらその精神を学ぼうとしてももはや手遅れか。



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黄落

9月下旬に届いた大雪山・旭岳からの紅葉の便りも徐々に
山裾にそして南下して今や都内でも黄落が進む。

これから枯葉そして枯れ野の季節がやって来て、
やがて春の訪れを静かに待つ日々が始まる。

その季節が暗くつらいとしても冬は春の訪れの助走期間であり、
その季節があるからこそやがて到来する花の季節の感動を高める。

このような春夏秋冬は青春、朱夏、白秋、さらに玄冬と人生にたとえられるが
人生が季節と決定的に違うのは再び春が巡って来ないことだ。

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池内紀(おさむ)はカフカを研究するドイツ文学者で、55歳で東大を
退官して以来の20年エッセイを書いたり翻訳したりと洒脱に生きている。

そして近頃自らの生き方の観察手帳としてまとめたのが
「すごいトシヨリBOOK」。

何気なく手に取ったら文章がうまいせいかとても気楽に読み進んで
いつのまにやら老後生活のノウハウを伝授されたような錯覚に陥った。

この生き方ブックはお金のことは個人の問題であるとしてスルーして
長い下り坂の時間をどのように生きるかを記したもの。

長い老後を楽しく生きなければ人生つまらないとして、
趣味など挑戦的、積極的な生き方を提示している。

因みに全10章の見出しは次の通りだ。

「老いに向き合う」「老いの特性」「老化早見表」「老いとお金」「老いと病」
「自立のすすめ」「老いの楽しみ」「日常を再生する」「老いの旅」「老いと病と死」。



年を取ることに否定的なイメージが付きまとうが、春が来ない冬に
向かう以上どうしても心持ちが暗くなるのはしかたがない。

とすれば本書の副題に「トシをとると楽しみがふえる」と明示されているように
やはり趣味を増やすことがポイントなのかも知れない。

この人が興味を持ったものとして挙げているのは旅、ホテル巡り、
デッサン、将棋、歌舞伎、ギター、ワイン、おしゃれ、小説の再読など。

大方のものは数年もしたら飽きるのだから極力興味の範囲を
広げた方が良いと説く。

上述されるジャンルについては無趣味の筆者も少なからず興味も
あるだけに、興味から趣味へとランクアップさせるのも悪くはないか。

ともかく人生100年の時代、楽しく老いの旅をしなければ損だと
人生の先輩が教えてくれている。




遠方の朋

高校時代の友人竹下節子さんがパリから一時帰国された。

今回の主たる目的は3年前の築地本願寺でのコンサートに続く
ギターアンサンブル「トリオ・二テティス」の全国3ヶ所での公演。

と言うことで週末の夜信濃町のカトリック系の「真正会館」の
ホールに出かけた。

「音楽と祈りの集い」と題されていたが実際はフランス・バロックの夕べで、
とりわけドイツのバッハと並ぶフランスバロックを代表するジャン・フィリップ・
ラモーの作品が演奏された。

そして第2部は、子供のためのバロック音楽童話「レミとミーファ」。

これは子供と祖父母との交流を描く音楽付き紙芝居で、
下記写真の通りDVD化されていた。





ところで竹下さんは毎年1~2冊著書を刊行し、今年もまた
「キリスト教は宗教ではない」(中央公論社)を出版された。

今回は新書でもあり比較的やさしく書かれているような印象を受けた。

キリスト教がいかに宗教として東地中海から欧州さらには世界に
広がったかについて世界史的に説明されている。

そして量的拡大の一方で質的な変化、つまり宗教以上の存在(=生き方マニュアル)
へと変化し人を救うという普遍主義へと昇華して行く過程が論考されている。

その2千年の歴史において西欧から世界へと普及しては様々な
受難に遭遇するが、その例を南米そして日本に求めている。

特に伴天連追放令以降の隠れキリシタンの話、そして明治以降ミッションスクールなどを
通じどのようにキリスト教が日本の社会に根付いていったのかについて興味が湧いた。

今更ながら遠藤周作の「沈黙」は重い作品だったこと、
そして五島列島の教会巡りの旅を懐かしく思い出した。



ところで与謝野鉄幹の作詞による「人を恋いうる歌」は
「友を選ばば書を読みて 六分の侠気四分の熱」と言うが
どのような友人に巡り合うかは不思議であり人の縁ということか。

また遠方に朋がいるというのは実に愉快なだけに、ギターを担いでの
12時間の空の旅にめげずに公演そして講演にと足繁く日仏の往来を続けてもらいたい。


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秋の夜長

10月に入り中秋の名月、十六夜、ノーベル賞発表と
日に日に秋は深まってきた。

秋と言えば何よりも読書の秋ではあるが、人恋しくもなる季節だけに
人形町の寿司店「とちのき」で友人たちと歓談した。

越後「麒麟山」など全国の銘酒を飲み比べ、
最後は店主お勧めの越前「飛露喜」で締めた。

大間の本マグロに石持ち鰈などの魚も最高で、
場所柄お値段もリーズナブルで今後再訪したいと思う。







ところでノーベル賞の文学賞はカズオ・イシグロ氏に決まった。
5歳から英国に渡り帰化して半世紀近くになるとのこと。

自らの移民体験をもとにブレクジットに反対そして再度の国民投票をと
論陣を張っており、外見、内容どこから見ても英国人。

にもかかわらず日本のマスコミはその内向き体質の故か
「日本人が受賞した」とひたすら主張しているのがおかしくも見える。

これだけ日本人が海外に出、日本の国際化が進んでいるのに
マスコミだけは超ドメステイックで天動説的発想をする姿は何だか滑稽だ。



一方発表当夜鳩森神社境内に集まったハルキストたちは
イシグロの名前を聞いて「Who?」と首を傾げて同時に落胆したとのこと。

ブックメーカーによれば村上春樹は今年も大本命で、
イシグロ氏は圏外だったとか。

またイシグロ氏は「村上氏より早くもらって罪悪感がある」と
述べていることからもハルキストたちの落ち込みは当然と言うことか。

村上氏がなかなか受賞できない理由はどの辺にあるのか分からない。

とはいえ同氏は「南京大虐殺は40万人」と中国政府が主張する30万人
よりも大きな数字を掲げては日本のリベラル派が喝采するように
少し政治色が強すぎるのがマイナス材料となっているのかも知れない。

ともかく秋の夜長は月を見て、お酒を飲んで、本を読んで、
あれやこれやと考えるのに最適だ。


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プロフィール

斉藤洋二

Author:斉藤洋二
銀行・生命保険会社にて
長く為替・投資業務に携わった。

特にホンコン、パリ在住の際には
中国・アジア・欧州・アフリカ
各国を見て歩いた。

歴史・料理・音楽に興味がある。

「ネクスト経済研究所」代表

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