欧州に影

2017年の欧州は英米発の自国第一主義が押し寄せる中で各国での
選挙が目白押しとなり、欧州リスク拡大とユーロ低迷が懸念された。

しかし実際は5月フランスでマクロン大統領が選出されて
独仏の主軸が安定したことで、欧州の政治リスクが一気に縮小した。

さらに経済成長が好調ぶりを発揮し、加えてECBによる
脱金融緩和策への流れが加わってユーロ高が進んだ。

このように年初には、世界でもリスクの高い地域のひとつと見られた欧州が
終わってみれば最高のパフォーマンスの地域になって越年することになり
そうだったのだが。

欧州で最も安定度の高いメルケル政権が9月のドイツ議会選で議席数を
減らし、以来2か月連立協議がまとまらず組閣できない状態が続いており、
欧州の政治空白が再び意識されるところとなった。



もともとメルケル首相率いるCDU、CSUとともに第2党のSPDが
議席数を減らし、連立を拒否したことが事の発端。

この間、環境保護の緑の党とビジネス界を代表するFDP(自由民主党)との
3党連立協議を進めてきたが、移民問題で緑の党の受け入れ積極化、一方
FDPは消極化で譲歩できず、結局もの別れに終わった。

再選挙をするのかCDU・CSUが少数与党内閣を発足させるのかの選択
となるが、どちらにしてもメルケル首相の指導力はこれまでの12年とは
異なるものになる。



メルケル首相は欧州を代表する経済大国の代表者であるとともに、何より自由主義や
民主主義、寛容の精神と言った伝統的な西洋の精神を代表する存在であったと言える。

またG20でみてもプーチン大統領の次に長くトップにあり、
何よりも欧州安定に向けての象徴的存在ともいえる。

ここでメルケル首相の政治空白が長引けば、再度ユーロの政治リスクが
市場の注目を集めることになるだろう。

2018年はイタリアでの総選挙、英国との離脱交渉、ギリシャの
債務軽減問題などが控えている。

また自国第一主義の流れはいったん小休止したように見えたものの
極右勢力と中道とのせめぎあいは続くことになりそうだ。

求心力と遠心力のせめぎあいが続く欧州は再び下落リスク
に遭遇することになりそうだ。



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カタルーニャ

スペインのTV局が制作したドラマ「イサベル」を見ている。

このヒロインは15世紀後半イベリア半島が群雄割拠した時代の人で、
現在のスペインの初代女王にあたる。

もともとカスティーリアの王女として生まれ、アラゴンの王子と結婚して
両国を共同統治することになる。
さらにイスラムをグラナダから追放してレコンキスタを完成させた。

加えてコロンブスを支援して大航海時代を開くなど、
さしずめ日本で言えば女信長と言ったところで、
この人なくしてスペインの始まりを語れない。



当時のイベリア半島はカスティーリアがトレドを中心に勢力を有し、
アラゴンはピレネーの麓に、その南にカタル―ニャが位置した。

フランク王国の影響を強く受けたカタルーニャはもともと
ギリシャの植民都市であるバルセロナを中心に発展したが
周辺地域とは異なる言語を話してもいた。

したがって地中海に面する地理的優位性に工業化のメリットを享受して
今に至つてもスペイン17州の中でその経済力は20%に達しており
同時に独立心は至って旺盛だ。

その流れの中で今回中央政府の反対を押し切って住民投票が行われたが
その結果は独立支持が90%を占めることになった。



この独立への動きについて中央政府は国家反逆罪を適用して
30年の懲役を課そうとしているが、州政府首相らはベルギーへ逃亡した。

とはいえ頼みとするEUは内政に関与するつもりも独立運動を支援するつもりもなく、
米国はじめ国際社会も冷淡だ。

つまりカタルーニャが独立すると考える人は少なく、
金融市場は冷静。

このようにスコットランド、ワロン、チロルなどの独立問題は
今後もずっと欧州に横たわることになるだろう。

現在の欧州はEUと言う求心力が強く働いているものの、
一方で少数民族による独立運動という遠心力もまた根強い。

はたして遠心力と求心力のどちらのベクトルに正統性があるのか。
またどのような着地点が見いだせるのだろうか。

2千年来単一民族国家に暮らしてきた日本人には分かりにくい問題だ。




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メイ首相失速

英国が国民投票によりブレクジットを決定して1年が経過。

国民の支持を得てハードブレクジットつまり単一市場から離れるが
これまでと同様に関税のかからない貿易協定を、一方で
移民も完全にやめることを目指して登板したメイ首相。

その人気はサッチャー首相の再来かと思われたが、
雲行きがあやしくなってきた。



英EU交渉を主導する上で自らの地位を盤石にすべく議会選挙を行ったが、
よもやの過半数割れ。

さらに高層マンション火災において避難者を見舞いに行かなかったことで、
国民のブーイングを受けることになった。

そして選挙から18日を経過してようやく北アイルランドのプロテスタント系地域政党・
DUP(民主統一党)から閣外協力を得ることになった。

この見返りとしてアイルランドに10億ポンド(1500億円)の投資を行うことを発表したが
ウエールズやスコットランドなどのみならず、アイルランドのカソリック勢力からの
反発が強まる。

どうやら八方ふさがりの様相だ。



そもそもメイ首相が求心力を失う切っ掛けになったのは、
国民の求めているものを読み違ったことか?

つまりハードブレクジットと思い込んだのが間違いのもとのようで、
当初こそ国民はブレクジットに沸いたが、今やソフトブレクジット
つまり移民も受け入れつつ自由貿易を目指すような方向へと国民の空気は変わっているようだ。

いや国民の意思は、もはやブレクジットでなくEU残留へと傾いているのかも知れない。

実際英EUの離脱交渉が始まっているが、早々とEU首脳から
英国の改心を促すような発言も聞こえてくる。

実際一年が経過して冷静になってみると、
ブレクジットの損得に疑問が浸透しだしたのではないか。

それでは次の首相は誰か?

ブレクジットを主導した元ロンドン市長で現外相のボリス・ジョンソン氏が
EU残留を主導してくれるのでは、とのブラックジョークのような声も聞こえるようになってきた。

一体英国はどこに向かおうとしているのだろうか。

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EU名誉市民

欧州統合に向けてローマ条約が締結されて60年。

拡大を急いだつけが回っているようで、27か国(英国を除く)に
膨れ上がる一方で、マルチスピードの欧州を目指す方向が
打ち出されるなど各国の足並みの乱れが目立っている。

とはいえここまでの歴史を築くのに貢献した多くの人々のなかでも
僅か3人しかいないEU名誉市民となったジャン・モネ、ヘルムート・コール、
ジャック・ドロールの3人の事跡は特筆されるところだ。



その一人コール元ドイツ首相が87歳で死去した。
その体格から言っても巨星墜ちると言った表現がふさわしいだろう。

その実績については1982年から98年まで独首相として
フランス、ロシアの了解を得て東西ドイツの統一を実現した。

またその代償としてユーロの発足に邁進するミッテラン仏大統領に
全面的に協力し、結果的に現在の欧州での独のひとり勝ちをもたらした。

そして3番目の実績として挙げられるのが東ドイツの物理学者メルケル氏
を見出して内閣に招じ入れ、12年に及ぶ長期政権を維持するような
大政治家を育てたこと。

とはいえ政権末期に汚職が発覚し、晩年は表舞台から身を引いた。

また目下のドイツの繁栄もこの人のライバルであったSPDの
シュミット首相による構造改革のお陰と言う説もある。

ともかくストラスブールでEU葬が行われる見込みであり、
歴史に名前を止める人であったことは確かだ。



一方先週末フランスでは共和国前進が議会の過半数を占めて
ユーロ統合推進者のマクロン大統領の政治手腕が発揮される準備が整った。

今後メルケル独首相との共闘がどのように進むか期待されるが、それでなくとも
英国の離脱交渉が始まったところでEUの視界は不良だ。

果たしてコール首相とミッテラン大統領が作り出したEUを、後継世代の
メルケル、マクロンの二人の首脳はどのように前進させることができるのだろうか。



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マロニエ

ゴールデンウィークが終わるといよいよ初夏。

信州の山々はこれから新緑が映える時期を迎えるが、
まさに「春過ぎて夏来にけらし」の季節が到来する。

梅丘の街を歩いていてピンクの花をつけたマロニエの木を
二本見つけたが、パリの5月を思い出させてくれる。



フランスの大統領選が終わり予想通りとはいえ日本そして世界の
メディアは仏の知識人へのインタビューを含め様々な論説記事を載せていた。

最も印象に残ったのはFTのヨーロッパエディターが「未完の勝利」
と題した記事。

ちょっと大げさのような気もするが昨年のブレクジットで不本意な結果
となった英国人はこのように考えるのか。

つまり、仏国民がグローバル主義や国のアイデンテティについての
考え方の小異を捨て、開放性や寛大さそして国際主義において
団結して今回の結果をもたらしたと称賛している。

また今回の選挙は1789年以降の仏の歴史の中で、「前進」と「反動」
を巡る壮大な闘いの一つとして語り継がれるだろう、とこれまた大げさな表現が。

さらにマクロンの勝利は、「ドレフュス事件」でドレフュス大尉が
苦労の末に反ユダヤ主義に打ち勝ち、正義の勝利を得たことを
思い起こさせるとも書いている。

今回の選挙が後世こんなに大きな歴史的事件と振り返られる
のかよく分からない筆者としては少し困惑してしまうのだが。



どちらにしても欧州そして世界が安堵した結果になったことだけは
確かだ。

実際4月24日の第1回投票で親EUのマクロンが決戦に残り
勝利が見えて以来金融市場はすでに2週間にわたりお祭り
状態が続いている。

とはいえ国内的には失業率が2桁台の仏の経済再生は喫緊の課題であり、
また対外的には「マルチスピード式」の発展を模索しているEUについて
先行組と弱小組の2極化への対応が図られることになる。

またユーロ統合推進派としてのマクロン大統領が、今後ユーロ圏の
議会創設と共通予算と言った問題をどのように現実化させるのかも
注目されるところだ。

昨年6月のブレクジットに始まったポピュリズムが蔓延する悪夢の1年が
過ぎ去った今、EUは明るい未来に向けて前進できるのだろうか。

このところ下落傾向を辿つてきた通貨ユーロが中期的に上昇トレンドに
戻るか否かは、EU統合への足取り次第となるだろう。

プロフィール

斉藤洋二

Author:斉藤洋二
銀行・生命保険会社にて
長く為替・投資業務に携わった。

特にホンコン、パリ在住の際には
中国・アジア・欧州・アフリカ
各国を見て歩いた。

歴史・料理・音楽に興味がある。

「ネクスト経済研究所」代表

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