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金融危機の検証

過日東大名誉教授・荒巻健二氏より新著「金融グローバル化の
リスクー市場不安定性にどう対処すべきか」(日本経済新聞出版社)
をお送りいただいた。

同氏は大学時代の同級生で大蔵省、IMFで勤務しその後
長崎大、東大、東京女子大で教鞭をとる傍ら国際金融特に
金融リスクについて行政的・学術的視点から研究を続けてこられた。

そして今回これまでの研究を深め、さらに各国の財務省、中央銀行
そして研究者からのヒアリングを踏まえてこの一冊を上梓されたのだ。



同書はアジア通貨危機、リーマンショック、欧州債務危機と過去
20年において発生した金融危機の検証を行い、さらに
その回避に向けていかなる対応が可能であるのかを考察している。

タイで始まりインドネシアから韓国に飛び火したアジア通貨危機は
ジョージソロスのタイバーツ売りなど固定相場制の故に投資マネーの
餌食になって生じたと記憶される。

実際新興国つまり金融市場が未発達で外貨準備が不十分な
開放的後進国経済において発生したというのが一般的な解釈である。

逆に中国やベトナムなど強力な資本規制が行われていた閉鎖的経済下に
おいてはこのような危機が発生しなかったことが今後を考える上でヒントであるとのこと。

またリーマンショックにおいて先進国においても後進国の固有と
思われた金融危機が発生することが検証された。

また国境をまたいでリスクが伝播するものであることは
欧州債務危機において証明されたのである。

つまり国際的資本フローに対する脆弱性を克服するには
資本規制と民間銀行の協力がこれら金融危機への処方箋に
なると結論づけられている。



これまで筆者も長く国際金融に携わり、金融危機を目にしてきたが
それはあくまでそれを飯のタネにするディーラーとして、また時に
機関投資家として資産保全の観点から市場の安定を望んできたものである。

しかし荒巻氏は国際金融のグローバル化に伴うリスクを金融を
行政するものとして掘り下げており、そのスタンスの違いを考えさせられた。

同氏は今後も研究に没頭することになるのだろうが視点は違うものの
筆者も負けずに金融危機の本質について考えてゆきたいと
新たに刺激を受けたのである。


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将棋ミステリー

藤井6段の登場、ヒフミンの引退、羽生永世7冠の100タイトルなど
話題沸騰の将棋界を舞台にした柚月裕子著「盤上の向日葵」を読んだ。

このミステリー小説は昨年秋に出版されたが、それ以前つまり藤井くん登場前
に雑誌に連載されていたもので、特にその人気にあやかったものではない。

ただ作品はタイムリーで藤井人気との相乗効果でベストセラーに
なっているようで、長編ながら飽きることなくあっと言う間に読了。



さすがに棋譜まで熟読する余裕はなかったが、将棋界の
様々なこと、例えばアマチュアの世界、奨励会を含めてプロの世界、
そして「真剣師」と言われる裏の世界まですべてを網羅。

さらに駒の並べ方や作り方なども含め将棋の周辺情報に
詳しくなれる時代にマッチした作品でもある。

そして刑事の一人もまた奨励会を26歳の年齢制限で退会した若者、
さらに舞台は天童、諏訪、島根などへと移ってゆく。

そのうち映画化されるのだろうが、清張の「砂の器」のような
作品になるのだろうか。



ともかく目下の将棋界は藤井くんの昇段が注目の的。

今後勝ち続ければ5月上旬にも7段になるとも言われており
ますます応援に熱が入る。

どこまで勝ち続けるのか分からない若者の可能性こそが
人気の秘密ということだ。

少し将棋に詳しくなりたい方、そしてサスペンスを楽しみたいと
思っている方にはこの将棋ミステリーをお勧めしておきます。



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帰りなんいざ

ギリシャ古典から現代にいたるまで西洋の文学は
往々にして人間の観察を主題にしてきた。

18世紀のルソーによる「自然に帰れ」との呼びかけがあったが、
それでも人間の研究こそ西欧文学の根幹をなす。

それに引き換え中国の古典では人間と同じように
自然を対象にする傾向が強い、

以上は比較文学家の沓掛良彦氏が「陶淵明私記」において
指摘していたことの要点だ。

この著作が私記と名づけられたように、どの学術世界も
専門家は自らのシマに拘泥し、その闖入者に不快感を
催すという。

この反発を恐れて著者はへりくだって私記として素人の建前
を取っているが、その内容は深い。

実際その深さは吉川幸次郎、高橋和巳など引用された
中国文学者に劣らないと素人の筆者には思えたのだが。



4世紀の東晋から魏の時代を生きた陶淵明と言えば貧乏貴族の
出身であり、官途を目指すが挫折して41歳で田園に帰る。

そしてその代表作品には「桃花源記」「帰去来の辞」がある。

「桃花源記」は漢文の授業で習ったが
桃の花が咲き乱れる桃源郷に迷いこむ話だ。

そこで何世紀にもわたり世俗から離れて暮らす人々に
遭遇するのだが、ユートピアなど存在するはずもなく
陶淵明の理想の世界ということだ。

そしてその後読んだのが「帰去来辞」だ。

帰りなんいざ。
田園将まさにあれんとす、なんぞ帰らざる。
既に自ら心を以て形のえきとなす、
なんぞ惆悵(ちうちやう)として独り悲しまん。

これぞ隠遁生活にあこがれるサラリーマンの気持ちを
代弁するものであり、心にしみる詩だ。

そしてそこでの生活は、「悠然と南山を眺望す」と言うように
陶淵明の心は雄大かつ静かさに満ち溢れているように思ったのだが。



故郷に帰り心穏やかに暮らしたはずの陶淵明ではあるが、
、実は様々な中央の情報が入っていたとも。

つまり時に心乱れることもあったと言うことで、昔も今も田園において
心穏やかに生きることはとても難しいということか。

つまり名実ともに田園の生活、隠遁の生活を送ることは至難であり
さすれば俗人の筆者にとって陶詩の世界に生きることなど
夢のまた夢と言うことだ。




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五輪後の日本

東京五輪まであと2年となった。

目下の日本経済は東京の中心地で不動産価格が高騰し
株価も26年ぶりの高値を更新している。

そして非正規を中心に賃金も上昇するなど労働需給は
ひっ迫しておりミニバブルとの声も出ている。

しかしこの好況感も東京五輪までとの見方が強く
過去のバルセロナやアテネ五輪時と同様に早晩景気は
腰折れし、深い谷到来の惧れをぬぐえない。

実際2022年ごろまでは女性および高齢者の労働参画で
生産年齢人口の増加が見込まれるが、それ以降は
労働者数の激減は避けられない状況だ。



このような環境において、日銀審議委員を昨年退任した慶応大学教授の
白井さゆり氏が書いた「東京五輪後の日本経済」を読んだ。

白井氏と言えばIMFに長く勤務したエコノミストで女性枠で日銀の審議委員になった。

そして一環して白川総裁の信奉者であったはずなのだが、黒田氏が登場するや
いち早く黒田氏の非伝統的な金融政策支持派へと変身を遂げた。

白川氏は在任中に金融緩和を15回も行いまたETFの購入を始めた緩和推進者
なのだが、その金融緩和政策は「しょぼい」と政府から非難されてきた。

特に後任の黒田氏の「大胆な」スタンスと比較されて気の毒だったのだが、
白井氏はそのタイミングで巧みに立ち回ったということだ。



この黒田総裁の下日銀が量的質的緩和策(QQL)を推し進めて5年
経過したが、やはり金融政策だけではこの日本が直面しているデフレ経済を
払拭することはできない、というのがコンセンサスになりつつある。

したがってこれからは日銀の資産の膨張とリスクの増大に配慮して
金融緩和の出口戦略へのかじ取りを行うべき。

また政府も公的債務が無尽蔵に拡大する中で財政規律を守らねば
日本は立ち行かなくなる。

と言ったワーニングが白井氏の結論と言ったところ。

その意見には同感であり、現在の政府と日銀による
財政ファイナンスの継続は危険である。



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きことわ

5年前に弱冠26歳で芥川賞を受賞した朝吹真理子氏の
「きことわ」を読んだ。

若い女流作家の登場と評判になったが題名が意味不明でもあり
読む機会なく過ぎていた。

最近良い作品だと薦めてくれる人がいたので読んでみた。



この短編は貴子(きこ)と永遠子(とわこ)が25年ぶりに葉山の別荘で
再会する話。つまりふたりの名前の頭二文字が題名の由来だ。

33歳と40歳になった二人の女性が9歳と15歳だった頃の記憶を辿り、
また意識は夢とうつつを往還しつつ、まさに時を主題にしながら
静かな夏の一日を描いている。

内容は静謐、文章は透明で饒舌でもなく舌足らずでもなく
言語感覚に優れた作家であることは一目両全だ。

綿矢りさ氏は文春がアイドル路線に切り替えたお陰で選出された、
そして作品は水準以下と酷評されて、第2作がなかなか書けなかった。

果たしてこの朝吹氏は綿矢氏との違いを示すことができるのか?



朝吹氏は受賞後祖父の妹に当たる朝吹登水子氏についての
思い出をたびたび聞かれたということだが、苗字が一緒とはいえ
法事で2、3度あっただけで答えに窮したとか。

その辺りのことについてはノンフィクション「朝吹家を生きる」
(石村博子著)に詳しく記されている。

それにしても朝吹家は初代、2代目が実業家だったが、
それ以降は音楽家や建築家、仏文学者など芸術的に多彩な人が多い。

その秘密は富や名誉よりも自立した精神を養うことを
優先させる家訓にあるようだと石村氏は結論づけていた。

「自立した精神を追い求める」とはとても説得力を感じるが、
いまさらその精神を学ぼうとしてももはや手遅れか。



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プロフィール

斉藤洋二

Author:斉藤洋二
銀行・生命保険会社にて
長く為替・投資業務に携わった。

特にホンコン、パリ在住の際には
中国・アジア・欧州・アフリカ
各国を見て歩いた。

歴史・料理・音楽に興味がある。

「ネクスト経済研究所」代表

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